千葉家庭裁判所木更津支部 昭和42年(少イ)1号 判決 1968年5月21日
被告人 鈴本しずゑ
主文
被告人を児童福祉法違反罪により罰金五、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納しないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
労働基準法違反の点については被告人は無罪。
理由
一 罪となるべき事実
被告人は君津郡大佐和町小久保二、八九五番地において芸妓置屋「竹の家」を経営している者であるが、法定の除外事由がないのに、昭和四二年四月五日ころ児童の心身に有害な影響を与える芸妓行為をさせる目的をもつて、児童である○本○子(昭和二六年九月一六日生)を右同所の居宅内に住み込ませて自己の支配下に置いたものである。
二 証拠の標目(編省略)
三 法律の適用
法律に照らすと、被告人の判示所為は児童福祉法三四条一項九号に違反し、同法六〇条二項、罰金等臨時措置法二条一項に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定罰金額の範囲内で被告人を罰金五、〇〇〇円に処し、右罰金を完納しないときは刑法一八条に則り金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
四 弁護人の主張に対する判断
(一) 弁護人は先づ、被告人と判示○本○子との間には雇用関係は存在せず、被告人は○子を自己の支配下に置いたものではないと主張するので案ずるに、前掲証拠によれば被告人は自宅奥八畳間を○本○子に提供し、食事を支給して住み込ませた上、料理店、旅館等の需めに応じ概ね○子を帯同して料理店等に赴き、○子と共に酒席に侍り、○子に指図して遊客に奉仕させ、その為夜間は被告人方に待機させ、外出する際は必らず被告人に行先を告げるよう仕向けており、遊客の支払う遊興代も○子の分をも含めて料理店等から一括受取り、料理店等の手数料、組合費、自己の取得する看板料を控除して残額を○子に交付していた等の事実が認められるので、雇傭関係の存否は兎もあれ、被告人は○本○子を自己の支配下に置いたものというべきであるから、弁護人の右主張は採用できない。
(二) (編省略)
五 労働基準法違反罪について
本件公訴事実中、被告人が昭和四二年四月六日から同年七月一五日までの間児童の福祉に有害な場所である君津郡大佐和町岩瀬八七一番地料理店昇栄ずし外料理店約八カ所において、○本○子をして酒席に侍する業務に就かせたものであるとの点について案ずるに、前掲証拠に照らせば右の事実は認められるけれども、同じく前掲証拠によれば、被告人は料理店、旅館等の需めに応じ、○本○子を帯同して共に酒席に侍り、遊客に奉仕し、その支払う遊興代はその都度料理店等から交付される伝票と引換えに一〇日目毎に○子の分をも含めて料理店等から一括支払を受け、その中から料理店等の手数料、組合費、○子との契約に基づき自己の取得すべき看板料を控除して残余はすべて○子に交付していたことが認められ、料理店等から受領した遊興代全額を一旦自己の所得とし、その中から○子に一定額の賃金を支払つていたというような事実は認められないから、被告人は○子がその労働の対価である遊興代を取得するにつき、遊客ないし料理店等と○子との間の仲介の労を執つていたに過ぎず、被告人と○子との間には労働基準法に所謂「使用者と労働者」の関係は存在しなかつたものと認めるを相当とするから、被告人に労働基準法違反罪の成立する余地は存しないので、刑事訴訟法三三六条によりこの点については被告人に無罪の言渡をする。よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 鍬田日出夫)